

「秋風が悲しみを曳き入れる」
謀ったか謀らずかは誰も知らず、木々の葉が墜ちるのに頽廃を連ねた軽佻浮薄な伝統であらうと。
秋と云ふものにそれとなく自我を重ね為人を感じ、沁み入る無言を寂とか謂ふ。
秋想えど人想はず、寂しかれど声を出さず。我が声は天に届けども、一切キミのたよりなし。
嘗て吹き込めた春の気は腐されているのだらうか。
どうやら今日で夏の暑さが事切れたらしい。此処二、三ヶ月大気を占領していた煴は屠られ、一寸ばかり秋の綻びが顔を出した。丈の高い草々は體一杯畝らせて長夜を㐂ぶのだらふ。
ふと這い寄る肌寒さにはそこはかとなく郷愁が込められてゐて、刹那の中の放浪人は非情の山麓へと駆り立てられる。
明けきらなゐ夜籠の中で言い知れぬ次の季節の気配を俯瞰してゐると、未だ家迄の道程は剩り有る事に気が付ゐた。私は半秒の間だけそっと息を吸い込むと、歩みを少しだけ速める。
逖くに視える灯の霞む方へ。
行く往く幸薄い記憶の濃い処へ。
山梟、山梟、山梟
山林に淀むことなく逝く不協和音
何故、私は人を喰わねばならないのか。
その応へは畳の下。
私の詞は、拙く叙情的な凷とでも言ゐませうか。
未だ止まぬ感情の雨を漠然と形容し、その中で磨り減った心なんかを経験した事すらなゐ「 恋」と称ぶのです。
憾みや怒りの言葉潰えず苦しい。
唯、それさへ大切な記憶。
凷に雨が降れば、時が経つにつれて解け出し、失くなるのでせうね。
幾等、また同じ様に掻き集めても掻き集めても。あなたの為と並べ立てた言葉が、軒先から垂れる雫の様に後から後から私の悪手を嘲ら笑うのです。其の様な人生でした。
2022年9月8日
昨夜は酷く取り乱してゐた。募る想いは時々堰を切ったやうに溢れ出す。それは一成人として大人気なゐ行為だ。申し訳なさで体は沸騰し、毛穴という毛穴がカッと開くのを否応なしに知覚させられる。25℃程の気温であるにも拘わらず、炎天下に抛り出されたかのやうな感覚に襲われた。
唯、露程の暴挙くらゐは赦して欲しゐ。熱暴走の由来は果たして何処から来るものなのかは明としてゐるだらうに。
夜の明け離れぬうちに
管窺蠡測なる心情を抑へ、
肯んずるは色彩の虚
謐なる血潮の線は頭頂より垂れ、
不毛な叩打の手は緩められむ。
情動は遠来より訪れ湖中に波及する。
茫洋の舟はその身に月陰の凍む迄、虹の入江を彷徨する、、徒に。
秋の嵐に寝醒め宜しくなく、庭先に散乱す物々を見て心腐らむ。
これから色付いたであらう葉を飛び散らせ給うこと勿れ。
瀦に沸き立つ細波。
遠近に群成す蘆共。
家々を敲く突風諸共
天地に礼拝せよ。
凪ぎの夜天、未明まで灯火有り。
月に俯く花、未明まで落ゆるなり。
涙雲に紛ふ明日への緒言を抛り、魂離るも未だ此岸に立つ。
九皐を終焉地とするは容易く、此処で幕を下ろすことにする。
彼岸へ延々と続く道の傍ら、もう向日葵は咲っておりますでしょうか。
あれから何年か過ぎ去り、個々の想いも変わり果てました。
幸せって人の数だけ在るような本当に曖昧な概念だなと頃日痛み入ります。
前置きも程々にしておきまして。
さて、殊の外今年は空梅雨で、何時の間にか夏が直其処迄来てしまったなぁとしみじみしておりました。しかし先日、朝は晴れておりましたので傘を持たずに出掛けたところ、夕暮れ時になって浽微とは到底呼べぬ、正に霈然の驟雨に衣服を台無しにされてしまいました。
気圧の変化に由り、潜函病にでも罹患してしまったかのような倦怠感と戯れていたところに、夏の便り。
今はもう青々と葉が繁る桜の木の上の方。人が近付くのを懼れて蝉が逃げて何処かへ往ってしまいました。残響は颼颼。幽篁から溟涬かに興る風。絳霄より墜ちる雨。そんなに怖がらなくてもいいのに、
野山の生き物はみな私だけを避けていきます。
ただ、姿形だけで自分に害を為す存在だと見做されているのでしょう。
ただ、私はここに居るだけなのに。それすらも赦されないのか。
まるで私の中に巣食う醜い心を見透かされているようで気分が悪い。
いつだってそう、心配事は慮外から攻めてくる。
何気ない夏の便りすら、今後を暗示する黙示録の一頁。