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荒廃した街
美しい庭がどこに歩いて行くかわかるサイトです。
小説 春支度

漫画のネーム用小説でした。

春の陽気は人の冷えた心も溶かすようで、普段よりインターンの活動は落ち着いていた。あまりにも暇を持て余していたので、緑谷と爆豪の2人は他事務所への手伝いへと回された。

轟も行きたいと駄々を捏ねて粘っていたが、父親の方が粘り強かった。運も悪く、先週に起きた事件の事務手続きもあったため、轟は留守番となった。子供を置いてきたアヒルの親鳥のような気持ちにさせられる顔で彼にお見送りをされた。

春の朝は少し寒いが日差しが心地よいなと考えながら、緑谷は歩いていた。几帳面な爆豪はスマートフォンと睨めっこしながら、最短距離で目的地まで行こうとしていた。緑谷は口を出してもきつい言葉を投げつけられるだけだろうと無言で後ろをついていった。

とくになにかあるわけでもなし、ふわふわと春を感じて歩いていた緑谷の目にそれは止まった。

公園の入り口にある鉄柵、そして、子供たちが登るのを阻むように誂えたスズメのオブジェ。そのスズメのオブジェの上にツツジの花の帽子が置かれていた。

無機質な銀の素材を慈しむような赤いツツジの花に優しい気持ちになった緑谷は、このことを共有しようと爆豪の裾を引っ張って歩みを止めた。

「んだ、制服に余計なしわつくだろうが」

「みて、これ」

嫌そうな顔をしながらも、渋々話を聞こうとする爆豪。緑谷の視線の先にいるツツジをみて、いっぱく静かになったあっと勝ち誇ったように笑った。

自分の問いかけた文脈とは違う爆豪の反応に緑谷は隣で少し怯える。

「勝った」

「はい?」

「俺のがいい帽子を作れる」

「はあ」

「おい、レシートポケットに入ってるだろ」

ずっと手を伸ばして、爆豪はレシートを要求してくる。緑谷は今日はどこかによってものを買うことはしてない。レシートを要求されても出せるものがない。

「ないよ」

「いや、ある。5日前にインターンの帰りに歯ブラシを買って小銭をブレザーに突っ込んでたから、ある」

爆豪の力強いレシートの要求に、おずおずと緑谷は言う通りにブレザーのポケットに手を入れる。半信半疑だったが、ポケットの中で手に当たるものがあった。

「あ」

小銭を包むように丸められたレシートが緑谷のポケットから出てきた。

自分の考え通りに要求したものがあったことに満足気にする爆豪にレシートを渡す。緑谷は自分の幼馴染の記憶と観察力にすこし怖くなった。

レシートを受け取った爆豪は公園入り口にしゃがみ、持っていたスーツケースを足の上に机代わりに置く。その上で、レシートを少しきったり、細かく折りたたんだりしながら黙々と作業する。

横から見ていても小さいレシートがとてつもないスピードで変形していく。

「よし」

その掛け声と共に手を止め、爆豪はすくっと立ち上がる。その手にはオールマイトのツノのようにアレンジされた折り紙の兜が握られていた。

「あっ、それ、幼稚園で教えてもらったやつ」

「んなの、誰でも覚えてんだよ」

「正方形からじゃないのにどうやったの!?」

興奮気味に食いつく緑谷をみて、満足げに鼻を鳴らす爆豪。息を吹きかけながら帽子を膨らませ、鉄柵のスズメの頭に兜を被らせる。計測もしてないのに兜のサイズはジャストフィットだった。

「今度僕にもつくってよ」

「はー?レシートじゃ被れねーだろ」

「でっかいの持ってくるから」

「バカすぎるだろ」

小説 切り取って、わからなくしたくて

漫画ネーム用の小説でした。

どの高校生活にもおしまいがあり、そして、締めを飾る大切な品がある。卒業アルバムのことである。

雄英高校をプロのカメラが撮影した写真とは別に生徒たちが自主的に撮った写真を載せるページがある。今の時代誰もが持つ携帯電話にカメラ機能が搭載されているため、A組では半年の期間で各々ので集めた写真を好きにアルバムに載せる手筈になっていた。

「はー、集まったねぇ」

麗日が印刷された写真が置かれた机を覗き込みながら、嬉しそうに話す。その隣では寮の談話室で委員長の2人が写真と向き合っていた。

「さすがに一生残ったら恥ずかしそうな写真は外そうとお話ししてまして」

「うむ、特にこれは公序良俗に反するな」

クラスをとりまとめる委員長たちが掲載できるか否かを選別していく。いま、飯田が捨てたのは女子陣にどさくさに紛れて飛びつこうとした峰田の写真であった。

「わたし、なんとなくだけど誰が撮ったかわかりそう」

「そうですわね、これとか耳郎さんでしょうか」

八百万が楽器の合間から手が出る面々の写真を取り上げながらはにかむ。

「このブレブレの撮影者は轟くんか……?いや、これは青山くんか」

「誰か分からない写真は見送りましょう。申し訳ないですが紙面が限られていますし」

「賛成だ。ん、これはなんだ?」

写真の山の中から一枚の写真を引っ張り出してくる。明るい空に逆光の街。眩しい空の中にUFOのように猛スピードでブレながら映り込んでいるものがある。

「とてつもなく早いUFOですわ!宇宙人ですの!」

「走るオレより鮮明に写っているから、ヒーローか人間だろう」

「あ、これ、デクくんやん」

3人でひとつの写真をうんうんうなっていると、ハッとした顔で麗日が言う。写真のUFOからたなびくマフラーの線をぴっとなぞる。

「まあ、そうですわ」

「だが、この写真も顔どころか何も見えないぞ」

「記念に残すってなるとこれはちょっとなぁ」

そういいながら、話題に上がっていたその写真は使わない写真の山に仕分けられた。

その様子を緑谷はキッチンで水を飲みながら見ていた。自分の名前が上がったため、呼ばれるのかと思ってそわそわしていたが気が早かったようだ。

「じゃま」

どんと脇腹を押される感触がして、緑谷は冷蔵庫の前からどかされる。不意打ちは重く、後から痛みが来た。

「いった」

「俺はァ、コーラ飲みたいんだよ」

緑谷を押しのけたのは爆豪だった。痛みで悶える緑谷のことなど見えないかのようにさらっと冷蔵庫をあける。

そのまま、爆豪は自分のヒーローコスチュームが模された髪留めが目印についたコーラをコップに注ぐ。なみなみとつがれたコーラを一気飲みする。

「かっちゃんさぁ」

「ん」

相槌とも話を遮るような返事ともとれる言葉を発し、爆豪は空になったグラスを緑谷に渡す。どうやら、シンクの近くにいる緑谷にコップを置くように促しているようだ。

「写真、アルバムのやつ、だした?」

緑谷の質問に爆豪は答えない。

「ここ2ヶ月、みんな写真撮ってたじゃん。かっちゃんも何か撮ったの?」

爆豪はじっと見つめて答えない。

しかし、爆豪の無言は少しの間だった。

グラスを強く緑谷の手に押し付けて、口を開ける。 

「お前は出したんかよ、あれ」

「えっ」

質問に質問を返されて戸惑っている緑谷に矢継ぎ早に言葉をかける。

「3週間前だよ、ここで撮ってただろ」

「は」

「これのためじゃねーなら、何で撮ったんだよ」

少し拗ねたような声色で爆豪はずいっと顔を近づけてくる。緑谷は声も出せずパニックだった。なぜそのことを知っているのか。寝ていたはずなのに。あの寝ている爆豪の写真は僕だけが知っているのに。

「なあ」

「自分のためです!」

顔を真っ赤にした緑谷は突然、スマートフォンを取り出してカメラで爆豪の顔を撮影した。

無我夢中で撮ったようでバシャバシャと連写の音が響いた。

「これは今提出します!」

そう言って勢いよく委員長達のところに走って行った。

どうしたー、どうしたーと委員長達は迎え入れる。

その一連をぽかんと眺めていた爆豪は隠し持っていたもう片方の手のスマートフォンの画面を眺める。

「いいもん見せてやろーと思ったのに」

そこには遠くから横目に撮影された緑谷の顔が映っていた。そして次の画面はビルをかけていく残像の写真だった。