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荊汀森栖
ケティ・モーリス 趣味で創作BL小説を書く
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おまけ2

『学園のエリートは同室者をダメにする』

「またですか」

 寮監の呆れ声に、僕は曖昧な笑みを浮かべる。

「またって……、しかも僕が悪いみたいな言い方」

 一方的に僕を責めようとする態度に、つい文句のひとつでも言ってみようかと思えば、倍になって返って来た。

「入寮して何度目だか言ってみなさい。え? この短期間に何人の男を籠絡すれば気が済むのですか! だいたい、ここは学生寮であってハッテ……出逢いの場でもなんでもないんですよ? ほいほい男を引っ掛けるのやめていただけませんか!? しかも! 未来有望な良家の御子息を!!」

 おいこら、ハッテン場っていいかけただろお前。寮監!

 ハッテンなんてしてません。触らせてもいないわ、失敬な!!

 まったく酷い言われようである。

「ひど……!」

 思わず睨みつけてしまうが、背の高い寮監にはノーダメージだろう。続けるはずの言葉をグッと飲み込んで、僕は俯いた。涙がこぼれそうだったからだ。

 叱られている最中に欠伸だなんて、火に油を注ぐようなものだが、昨夜はロクに寝られなかったのだから仕方ないだろう。

 手の甲でこっそり涙を拭っていたら、不意に後ろから腕が伸びてきて、大きな体に抱き込まれた。

「宮古を泣かせるな!」

「田中くん……?」

 僕、泣いてないよ?

 っていうかどこから現れた?? いつからそこにいたの?

「田中、お前はそれでいいのか!? お前だって被害者だろう?」

 彼には田中くんが見えていたのか、特に驚いた風でもないが……。もっとこう、言い方!! ふんわり優しく包んでくれないかなー。

 僕に対する風評被害がまた無駄に広がってしまう。

「宮古が、良かれと思ってしてくれたことを、俺が受け止めきれずに甘えてしまったのがいけないんだ……だから、こんな、離れ離れに……」

 おいおいおーーい。田中くん? 何を言ってくれちゃってるの??

「ちょ、ちょっと待ってください! 僕は同室者の生活改善と、ちょっと勉強を見てあげただけですよ?!」

 という僕の叫びに、「ギスギスした学園生活で、お前の優しさが沁みた」と、田中くんが僕を抱く腕に力を込める。

 ギブギブ! 締まって苦しいから!!

 腕をポンポン叩いて田中くんの顔を見上げたら、にっこりと甘い笑みを浮かべられた。

 と、トリハダーー。

「田中……不良だった頃の面影はいったいどこへ……」

 ほら、寮監だって呆然としてるじゃないか。

「俺の幼稚な反抗を、宮古は気にもせず普通に接してくれた」

 え。だってファッションヤンキーだと思ってたんだもん。

「田中くんって不良だったの……?」

 という呟きに、ふたりが僕の顔を凝視してきた。

「だって……。田中くんは見た目こそ金髪だし眉毛も細く整えているし、耳にはピアスが沢山着いててアクセサリーもジャラジャラいわせてる。制服も着崩して、口調も少し乱暴だったよ? でも、話し掛けたら普通に返してくれるし、僕の作ったごはんも文句ひとつ言わずに完食してくれてた。そんな不良っているの?」

 と、つい言ってしまえば、寮監は頭を抱え、田中くんは「やっぱり結婚してくれ――!!」と叫んだ。

 だからそれ、昨日断ったよね?

「よう、お疲れさん」

 朝の騒動をなんとか治め、ざわつく周囲に耳を塞ぎ、ルーティーン通りに授業を受けた一日の終わり。

 僕の癒やしの時間。

 寮に併設されている購買部――とは名ばかりの小さいけれど豪華なコンビニ兼スーパーマーケットで、僕は買物カゴを手にウキウキと食材を見繕っていた。

「御来屋さん。こんにちは」

 僕に声を掛けてきたのは、いつもここの店番をしているオジサマだ。

「お前、田中も落としたって?」

「人聞きがわるい! っていうか、もう御来屋さんにまで伝わってるの? うわぁ……」

 僕が眉間に深くシワを刻んでいると、「俺は耳が早いんだ」と御来屋さんが笑った。

 イケオジめ。カッコいいじゃないか。

「三ヶ月で五人は、流石に多いだろう? お前さんは職員の間でも噂の的になってるからな」

「それ悪口だよね!?」

 確かに、三ヶ月で同室解消五回は多いかもしれない。

 でも、自分に求婚してくる相手と同じ部屋で安穏と過ごせるか寝られるか? 僕は無理!

「せっかく学年首席特典で自炊を認めて貰っているのに、このままじゃキッチンのない一人部屋に移動させるって脅されてるんだよ? 圧倒的に僕が可哀想じゃないか!」

 ぷんすか。

 なんで誰も僕の味方をしてくれないんだろう。

 ちょっと目に余って、同室者の生活改善を促しただけなのに――。

 成長期だっていうのに朝食を抜く奴が多いから、自分のを作るついでに食べさせていたら夕飯まで面倒みることになって。一人分も二人分も手間は変わらないけど、負担が偏るのはよくないから、ギブアンドテイクとして皿を洗ってもらったり共有リビングの片付けをしてもらってた。

 みるみる血色が良くなって、髪なんかもサラツヤで。思わずペット《家族》感覚で「よしよし」してたのが悪かったのかな。

 あと、返却されたテスト用紙がリビングに放ってあったから、つい「ここはこうしたらいいよ」って改善点を話をしていたら、解りやすいって褒めてくれて。自然と勉強を見てやることになって――。

 同室者として、そこまでおかしなことはしていないつもりなのに。

 つい、ブツブツと溢していたらイケオジに笑われた。

「そんなお前さんに朗報なんだが、寮の離れに小屋が建ってるの知ってるか?」

「――小屋? あー、なんかぐるっと樹に囲まれたとこかな。建物があることしか知らないけど?」

 ちなみに寮は全部で三棟あるんだけど、中庭を挟んで三角形に建っている。イケオジ御来屋さんが言う離れは、そこから西に少し行った場所にあって、校舎からも、他の施設からも遠いから、あまりひとは寄り付かない。

「キッチンはもちろんあるし、リビングもバスルームも広くて庭つき。静かでいいぞー」とか言ってる。

 確かに、寮にいると誰かしら訪ねてくるようになってしまって落ち着かない。主に、元同室者たちだけど。

 特に試験の後は顕著で、テスト用紙と成績順位表を手に、部屋の前に列を作って「見て見て」「褒めて」と煩いくらいだった。

 最初にプロポーズしてきた奴、鈴木に、「自分より成績が悪くて将来性の窺い知れぬ相手に、僕が、嫁ぐ……!?」って言ったのがいけなかったらしい。

 その一件で鈴木が部屋の移動に合意してくれたから、僕は毎回それをお断りの理由として使っているわけだが。

 鈴木も佐藤も渡辺も山口も、優秀な男になれば僕が結婚に合意するとでも思っているらしい。

 ここは日本ぞ? 同性婚は認められていませんが??

 僕は彼らに、法律の勉強もさせなければいけないのだろうか……。

 ということで?

 何もかも面倒になった僕は、御来屋さんの提案に乗って、意気揚々と離れへ引っ越したのだった。

 『同室者をダメにする学年首席が御来屋理事長へ嫁いだ』などという不名誉な噂が広がるまで、あと一日。

2020.08.26